フランス人の和食あるある
パリには日本人街なるものがオペラ座の近くにあり、日本料理のお店や日本食スーパー、日本の雑貨店が集まって日本人街となっています。
働く人も日本人が多く、旅行中に疲れて食欲のなくなった日本人観光客も、日本食と日本語の通じる安心を求めて立ち寄っているようです。
フランス人の日本好きにとって、ここはリトルにっぽん。
10年前よりも店の数も食べられる料理の種類も増えて、日本食がフランス人に支持されているのが分かります。
寿司、ラーメンという単語は、ビザやハンバーガーと同じくそのまま通じます。
しかし刺身、そば、うどん、焼き鳥となると、フランス語訳がなければ全員には通じません。
五年前よりも箸を使える人が圧倒的に増え、和食レストランで子供に箸を使って食べる練習をさせる親も見かけるし、子供も嫌がらずに頑張って箸で食べ続けています。
これからますますフランス人が日本旅行に出かけるでしょう。
先日フランス人マダムが日本に行った時、初めてしゃぶしゃぶを食べようと店に入ったそうです。
[タレは何にしますか?]
と聞かれたけれど、何があるか知らないし、鍋を目の前に置いて行ってしまい、食べ方も分からなかったと話していました。
彼女は英語が分からなかったか、日本人の接客係が日本語しか話せなかったか。
英語が世界共通語とは言え、英語が第2外国語の国民同士なら、レベルが高くない人同士のコミュニケーションは難しくなります。
ならば、マンガや写真で、見ただけで作り方が分かるようなPOPやコピーした紙を用意しておけば良いと思うのです。
タレは選ばせなくても、どんな種類があるのかを知らない外国人に紹介する目的で、2種類出せば喜ばれるでしょう。
外国人の体験はトリップアドバイザーやブログで、世界の人たちが共有する事もあり、ちょっとした心使いが後になって評判になるかもしれません。
またテーブルに塩、胡椒以外の慣れない調味料が置いてあっても、何にどれくらい使うのか分かっていません。
パリのアジア系の店に入ると、知らない調味料が置いてある事があります。
当たり前に置いてあるけれど、不親切だなぁと思うのです。
[ あなたの料理にはこのソースを少しかけると美味しいですよ ]
[ 味付けが薄ければ、こちらをお使いください ]
くらい言ってくれれば、もっと食に興味を持つのに。
それと同じで、日本食歴の浅いフランス人は、醤油の使い方を知りません。
テーブルに醤油が置いてあると、とりあえず皿になみなみ注ぐ人が大勢います。
醤油用の小皿がテーブルの端にあって、それを使うなら日本食中級者。
小皿が置かれている意味が分からずに、自分の前にある取り皿になみなみ醤油を注ぐ日本食の夜明けの人達。
そして注文した酢の物や天ぷらがやってくるのですが、醤油の出番はありません。
その後に寿司や刺身を注文したとしても、かなり余る量の醤油がフランスの下水道へと消えていくのです。
醤油は必要な時にテーブルに持っていき、小皿に醤油を少し入れてあげれば、手間にはなるけれどムダにはなりません。
一度に注ぐ醤油の量を見せる事で、フランス人も使用量がわかってくるのではないでしょうか。
またご飯がでてくると、大体の人は醤油をかけて食べます。
これはキッコーマンがフランスで醤油を売るために、ご飯に醤油をかけるのを宣伝からだと聞いた事があります。
その甲斐あってフランス人はご飯には醤油と、パンにバターを塗るかのように当たり前にかけるのです。
家庭でのご飯ならば構いませんが、外食では恥ずかしいことだと誰にも教えられずに、今もなおシックな大人がレストランで[ お醤油かけご飯 ]をご堪能しております。
中には和食店に甘い醤油が置いてあるものだと勘違いしている人がいます。
こういう人は日本人経営の和食店に馴染みがない、寿司に砂糖の入った醤油を出す中華系和食店の常連様です。
中華系の日本食レストランで醤油が2種類あった場合、それは普通の醤油と減塩醤油ではありません。
普通の醤油と照り焼きソースなのです。
この照り焼きソースを刺身や寿司につけて美味しく感じるのがフランス人。
幼少期から日本食の分かる舌を育てる教育を受けていません。
味の薄い物に濃いソースでたっぷり味付けして食べる食文化で育てば、生魚に照り焼きソースの選択はありでしょう。
それにフランス全土の大半の和食店は中華系の経営です。
田舎に一軒しかない和食店が、日本人経営なんてケースはかなり珍しいのです。
これでは甘い醤油に馴染んでしまうのは当たり前だし、アジアの文化が各国大きく違うとは知らないフランスは、中国人が見よう見まねでつくる和食でも、スペイン料理とイタリア料理の違いくらいしかないと信じています。
しかし日本側からみれば、食は文化。
寿司を照り焼きソースで食べられては、たまったものではありません。
中国人は中華料理が下火になったフランス全土に、フランス人好みにアレンジした日本食を、商売として広めています。
彼らにとっては他国の料理だから、文化継承の意識も義務もありません。
しかし彼らのおかげで日本食がより大衆化してきたし、日本を身近に感じたり、日本に興味を持ってくれるフランス人だってでてくるのです。
もし正統派の和食店ばかりだったら、敷居も価格も高いでしょうし、始めから本場日本の味に馴染めたか分からないし、こんな日本食ブームにはならなかったかもしれません。
だいぶ日本食がフランス人に浸透しているので、こんどは本来の日本食やマナーを正しく理解してもらえるといいのですが。
箸を持って皿をドラム代わりにする子供達へ、和食レストランで普段見慣れないアジア系顔のスタッフに囲まれて、娯楽施設に遊びに来て、キャラクターに会ったようにワクワクしてしまうのは分かります。しかしそこは食事処。
箸はドラム用ではありませんから。
味噌汁にスプーンが必要な方へ、他のアジア系と違ってお椀に口をつけて味噌汁をすすっても、マナー違反にはなりませんので。
麺類はお椀よりも大きい器に汁が入っているので、セキュリティと便宜上レンゲをつかいます。
味噌汁と混同しませんように。
また、麺をすする音はたてて構わず、スパゲティの様に食べるほうが異様にみえます。
[ すする ]のを下品だと思うなら、麺類の店に近づかない事。
P.S. 日本人は汁物や鼻水をすする事に抵抗はありませんが、フランス人がどこでも平気で人前で鼻をかむ事のほうに抵抗を感じます。
箸で髪の毛をまとめる女性達へ、レストランの箸は食事用で花魁の使っていたような装飾用ではありませんから。
髪の毛が長くて食事の邪魔になるのなら、あらかじめゴムやヘアアクセサリーを持参する事をお勧めします。
って、誰か教えてあげて~!
日本でこんな観光客ばかり見かけるようになったら、隣で落ち着いて食事出来ますか?
日本の飲食業界でいえば、オリンピックに向けて外国人のベジタリアンやヴィーガンの存在は無視できなくなると思います。
日本人が思っているよりも、ベジタリアンやヴィーガンはフランスでは受け入れられています。
観光地レストランの外のメニューには、ベジタリアン用などのマークがついているし、フリーペーパーにはヴィーガンレストランがマメに紹介されています。
健康のためと言うよりも、それが生き方や思想に関連している事が多く、彼らは堂々と主張します。
日本食はヘルシーだというイメージを持った人が多く、和食店に行けば何とかなると思うようです。
ところがカツオダシを使っている場合が多く、現実は枝豆、かっぱ巻き、梅しそ巻、冷奴をそのまま食べるくらいしかありません。
それでも無いよりはマシ。
グループに一人は混ざっていたりするので、一つでも食べられる物があると、本人も周りのお連れ様もお腹を空かせてお店を探し回らなくてすみます。
さて和食の本場日本で、フランス人が照り焼きソースを寿司や刺身にかけたいと言ったらどう対応するのでしょうか?
何も言わないで照り焼きソースを差し出したら、その場では親切な人に思われますが、この外国人は本当の食べ方を知らないままになってしまいます。
日本食の知識レベルがそのままということです。
万が一この先、高級寿司屋に行く機会ができた時に、いつもの様に照り焼きソースを要求し、日本食継承意識の高い板前さんに、[ありません]
と言われ不満に思うか、そこでやっと本来の食べ方を知って驚くかのどちらかでしょう。
高級な皿で刺身を出したらフォークとナイフをくださいと言ってくる人に、どう対応するのでしょうか?
親切心で渡したら、高価な皿がガタガタになって使えなくなります。
もしこんな親切で評判になったら、来るのは同じレベルのお客さんばかり。
トリップアドバイザーでこんなクレームを見ました。
フランスである星付きレストランに予約をする時に、
[ ベビーカーで赤ちゃんも連れて行く]
と言ったら断られたそうです。
赤ちゃん連れには食事をする権利がないのか!と怒り奮闘の様子。
皆さんは、お店側とこのお客さんのどちらに共感しますか?
私はこの店なら静かに食事ができそうだし、きちんとしたポリシーのある店だと感心しました。
NOとあまり言わない日本人に対して、堂々と自己主張をしてくる外国人の要求を、どこまで受け入れてどこからNOと言うのか、これが難しそうです。
日本に行ったフランス人に、本当の日本食文化と遭遇してきて欲しいと願っています。